江戸時代の絵師、長澤蘆雪の虎図襖から着想を得た展示作品の図録。長澤蘆雪のように、猫をそのままの姿で描かないことこそが猫の本質が表現されるという考えのもと、全30種の猫と花のアンバランスなアートブック。猫と暮らす日々の1シーンを切り取った。
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「猫をそのままの姿で描かないことこそが猫の本質が表現される」という考えのもと、全30種の猫と花のアンバランスな組み合わせでまとめた、展覧会「猫は明日も私の花瓶を決まって倒す」の図録です。猫と暮らす日々の1シーンは、猫好きにはたまらない逸品となりました。
日本の昔、江戸時代の絵師に歌川国芳がいました。彼の作品の中には、化け猫・猫又が多く描かれているのですが、その異様な化け猫の構図にこそ、何故か猫らしさを表現できていると感じました。それは猫の定まらない骨格なども相まって、ストレートに猫を描写せずにデフォルメした捉え方に猫らしさがあると感じたためです。漫画や似顔絵などでも、ある特徴的な一部を誇張して描くことで、本質を捉えるイメージが近いかもしれません。さらに、同じ時代に長澤蘆雪という女性もいました。
彼女の代表作には「虎図襖(とらずふすま)」というものがあり、その襖の表には堂々とした虎の絵が描かれているのですが、尻尾は異様に長く顔もどこか猫っぽい。実は、襖絵の裏面には水中の魚に飛びかかろうとしている猫の姿が描かれています。その猫が表の虎の真の姿という見立てになっています。つまり、襖の表の虎は魚の目線で見た大きな猫、というオチなのです。私たちはその「裏切られた・ギミック」と感じる表現方法にも、猫の本質があると感じました。猫の持つ強靭さや、媚びず支配できない性格を長沢蘆雪の虎図襖はまさに表現できているのです。私たちは長沢蘆雪の虎図襖にインスパイアされ、モチーフをあえて黒く塗りつぶし不明瞭にし猫とは認識させない。そして、一般的なわかりやすい猫の構図も使わずに、誇張し異様さを演出することで、リアルな猫の実像と距離をとりました。そうすることで、前段で述べた「猫の本質」を捉えることに成功したのです。